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Research

Chemical senses / 化学感覚
Olfactory system / 嗅覚

Introduction / イントロダクション

生命にとって最も重要な感覚〜嗅覚

M71_Lhx2_KI.jpg 匂いを感知する嗅覚は、生命維持のために必要な動物の様々な行動に密接に関与し、進化の過程で原始から現代に至るまで保存されてきた重要な感覚です。ヒトやマウスの嗅神経系は、嗅覚受容体(odorant receptor: OR)によって数十万もの匂い分子を識別しています。OR多重遺伝子は、 ゲノム上最大の遺伝子ファミリーを形成し、 マウスにおいてその総数は約1400個、実に全遺伝子の5%を占めることになります。遺伝子の多さからも 動物にとっての嗅覚の重要性がうかがえます。視覚優位のヒトでは偽遺伝子化したOR遺伝子が多く認められるが、ヒトゲノム最大の遺伝子ファミリーであることにかわりはありません。


How do we smell? 「どうやって匂いを感知しているの?」

 素朴な疑問ですが、我々は鼻(嗅覚)を意識して考えたことはないかもしれません。当研究室では、無限ともいわれる匂いの感知と識別を可能にする神秘の感覚神経、嗅神経系の謎に遺伝子/分子レベルで迫ります。分子生物学的手法、マウス遺伝学的手法、様々なの可視化技術を用いて、
  ① 嗅覚受容体遺伝子発現機構
  ② 神経幹細胞から成熟神経細胞までの神経分化・再生
  ③ 嗅神経回路形成
の分子メカニズムの解明を目的に研究を行っています。

遺伝子改変マウスなどを利用し、遺伝子発現、神経回路などを実際に”目で見る”ことにより、嗅覚の謎に迫るとともに、生命の持つ神秘性、美しさに触れてみませんか?

Results / 研究成果

体を外敵から守る化学感覚細胞のマスター因子を同定

 〜 舌だけではない!全身の味細胞の機能解明へ

私たちは口腔内の味細胞によって味物質を感知しています。近年、味細胞と形態が類似し、味覚に関連する遺伝子を発現する細胞が、気道や消化器官をはじめ体中の様々な器官で見つかってきました。これらの細胞は、共通してTrpm5と呼ばれるイオンチャネルを有し、そのほとんどが味覚受容体を発現していることから、Trpm5陽性化学感覚細胞(以下、化学感覚細胞)と呼ばれています。一般に、苦味を呈する化学物質は毒物であることが多く、ヒトは苦味を舌で感じたときに、それを吐き出し、自分の身を守ることができます。興味深いことに、全身に分布する化学感覚細胞の多くは “苦味”の受容体を発現していることから、生体防御反応への関与の可能性が考えられています。
 今回、口腔内で苦味・甘味・旨味を感知する味細胞の産生に必須な転写因子Skn-1a(別名Pou2f3)を欠損したマウスで、体中のTrpm5陽性化学感覚細胞が消失していることを見出しました。この発見は、Skn-1aがこれら化学感覚細胞のマスター因子であることを明らかにしたもので、謎に包まれたTrpm5陽性化学感覚細胞の生理機能の解明にむけた重要な成果といえます。
 この成果は、2017年12月7日に米国のオンライン学術誌『PLOS ONE』(プロスワン)に掲載されました。

PLOS ONE (2017) 12(12):e0189340. DOI: 10.1371/journal.pone.0189340
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超巨大遺伝子群を制御するゲノム領域を発見

 〜 匂い受容体の遺伝子進化の謎の解明へ

嗅覚受容体は、ゲノム上で最大の遺伝子ファミリーを形成し、膨大な匂い情報の識別を可能にしています。嗅覚受容体ファミリーは、魚類から哺乳類に至る脊椎動物に共通して存在するタイプ(クラスI)と、陸棲動物特異的なタイプ(クラスII)に分類されます。そのうちクラスI遺伝子は、動物の進化の過程で染色体上の1カ所に留まり、長大な遺伝子クラスターを形成しています。この長大なクラスI遺伝子クラスターの発現制御のメカニズムは長年、未解明でした。
 今回我々は、マウス遺伝学的手法と情報学的解析を駆使し、哺乳動物間で高度に保存されたクラスI遺伝子クラスターを制御するエンハンサーを同定しました。ゲノム編集技術を用いた解析から、このエンハンサーは、この遺伝子クラスター全体を制御しており、制御する遺伝子の数とゲノム上の距離の両方において、これまでに例をみない規模で遺伝子発現を制御していることが明らかになりました。この”超”長距離作用性エンハンサーの発見は、嗅覚受容体の遺伝子進化の謎を解く重要な成果と言えます。
 本成果は、2017年10月12日(日本時間18:00)、英科学誌『Nature Communications』に掲載されました。

Nature Communications (2017)8(1):885. DOI: 10.1038/s41467-017-00870-4
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本論文は、科学新聞1面で紹介されました。

孤立化学感覚細胞の産生機構の解明

 嗅覚とともに味覚は化学感覚細胞として機能している。両感覚神経ともに、外部環境中の化学分子を感知し、個体の生命維持活動に深く関与する。味細胞は、味覚受容体を発現することによって味分子を感知するが、最近味覚受容体が舌だけでなく、外部環境に触れ得る組織、例えば、気道・気管・鼻腔内呼吸上皮・尿道に発現していることが明らかになってきた。今回我々は、呼吸上皮において味覚受容体を発現する孤立化学感覚細胞(Solitary Chemosensory Cells: SCCs)の産生に転写因子Skn1aが必須であることを明らかにした。Skn1a遺伝子欠損マウスではSCCsが産生されないことから、本ノックアウトマウスを解析することによって、未解明のSCCsの生理機能が明らかになるものと期待される。

Bioscience Biotechnology and Biochemistry (2013), 77(10), 2154-2156
本論文は、Faculty of 1000に推薦されました。

フェロモン感知する神経細胞の生成機構を解明

 フェロモン分子を感知する神経細胞は、大きく2タイプに分類される。2タイプの神経細胞は共通の前駆細胞(用語3)からつくられるが、いつ・どのようなメカニズムで神経細胞が2通りの運命の片方を選択し、最終的に神経細胞として機能するようになるかは不明だった。今回、転写因子Bcl11bを欠失させたマウスを用いて、Bcl11bが2タイプの神経細胞への運命決定を制御していることを示した。フェロモンを受容する神経細胞がつくり出されるメカニズムの新発見といえる。

Journal of Neuroscience (2011), 31(28), 10159-10173
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本論文は、米国神経科学会誌において特集記事として紹介されています。