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Research

Chromosome Engineering / ゲノム工学研究

Introduction / イントロダクション

ゲノム工学研究

 DNAを取り扱い、操作する技術は生命科学分野において必要不可欠であり、遺伝子工学・発生工学など多様な研究分野における基礎技術です。特に今日のゲノム解読の進展に伴い、より巨大なDNA領域の機能解析が重要性を増しており、そのための巨大DNA操作技術を含む新たなゲノム工学技術の開発が必要です。


これまでの人工ゲノムテクノロジー

よく知られた巨大DNA操作ツールとしては酵母人工染色体(YAC)や細菌人工染色体(BAC)があり、ゲノムDNAライブラリーの構築とゲノム解読に大きく寄与してきました。これらのシステムは、ゲノムライブラリーの構築・トランスジェニックによる機能解析など多くの実績がある一方で、扱えるDNA断片のサイズ(BAC: ~300 kb、YAC: ~1000 kb)やベクターシステムの操作性(遺伝子改変操作が複雑、変異の繰り返し導入が困難)、安定性(脱落、キメラ化、欠失)の面において、未だ改良の余地が残されています。
BGM_BAC_YAC.jpg

次世代人工ゲノムベクター〜BGMベクター

これまでのシステムの弱点を克服し得る新たな巨大DNAクローニングシステムとして、枯草菌ゲノムベクター(BGM)ベクターがあります(Itaya M. et al. PNAS 2005, Kaneko S. et al. J Mol Biol. 2005, Itaya M. et al. Nat Methods 2008)。BGMベクターシステムは枯草菌の環状ゲノム(約4百万塩基対、4メガbp)そのものをベクターとして活用するため、次のような特長があります。
 ①3メガbpを超える外来DNAのクローニング能力
 ②枯草菌の「自然形質転換」を利用した簡便なクローニングと相同組換えによる遺伝子改変操作
 ③枯草菌ゲノムに直接組込むことによる外来DNAの高い安定性

このように、従来のクローニング技術を超える能力を有するBGMベクターシステムであるが、“クローニング・遺伝子改変・応用”の一連の操作技術は未だ開発段階であり、哺乳動物遺伝子改変への適用例はなかった。BGMベクターシステムを用いた遺伝子クローニングから応用技術(巨大DNA断片の遺伝子改変操作、トランスジェニック動物等)までの一貫した実用的操作法・技術基盤を確立することによって、その適用範囲は益々広がるものと期待されています。
BGMテクノロジー.jpg

当研究室ではBGMベクターが有する特長を生かして、次世代のゲノム工学技術およびその応用技術の開発をおこなっています。さらにこれらの技術を駆使して作製した遺伝子改変マウスを利用して、嗅覚受容体遺伝子の発現制御機構の解析をおこなっています。
 ①現システムの改良・新たなBGMベクターの構築
 ②BGMベクターにおける各種遺伝子改変操作法の確立
 ③メガbpスケールのマウストランスジェネシス法の開発

Results / 研究成果

RecA誘導型枯草菌ゲノムベクターの開発

 既存のBGMベクターシステムには、内在性RecAによる不必要な組換えによってクローニングしたDNAを安定に保つことができない可能性が存在しました。そこでキシロースにより遺伝子発現を制御できるシステムを用いてrecAの発現を制御することで、遺伝子操作時のみrecAの発現を誘導できるBGMベクター(inducible recA expression BGM vector:iREX)を開発しました。iREXではキシロース非存在下においてインサートDNAを安定に保持できることが明らかとなり、今後巨大DNA操作への応用が期待できます。

BMC Genomics (2015) 解説はこちらからLinkIcon

新たなトランスジェネシス法の確立〜BGMトランスジェニックマウス

 本研究では、BGMベクター上での挿入・欠失・逆位・連結(伸張)の全遺伝子操作が可能であることを実証し、従来法では困難であった逆向きに挿入されたクローン同士の連結による2ゲノムDNAの再構築に成功しました。さらに再構築ゲノムDNAを用いたBGMトランスジェネシス法を確立し、Class I ORのcis-elementを世界で初めて証明しました。従来、挿入・欠失・逆位・伸長(連結)の全ての遺伝子改変操作を一つのベクター上で行えるシステムは無く、またBACやYACでは困難であった連結操作によるゲノム構造の再構築に成功しており、画期的な成果といえる。さらにBGMトランスジェネシス法の確立によって、BGMベクターがBAC・YACに次ぐ新たなゲノム工学ツールとして有用であることを実証しました。今後BGMベクター特徴を活かしたメガベーススケールでのゲノムDNA工学への発展が期待できる。

BMC Genomics (2013) 解説はこちらからLinkIcon