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Research

iREX / RecA誘導型BGMベクター

iREX: inducible RecA Expression BGM vector system

概要

 BGMベクターシステムは約4.2 Mbの枯草菌ゲノムそのものをベクターとして用いた次世代巨大DNA操作ツールです。最大クローニングサイズは約3 Mb以上と非常に大きく、枯草菌がもつ組換え酵素RecAによる組換え反応を利用した様々なDNA改変操作が可能であることから、長大なゲノムDNAを対象とする様々な研究領域で注目を集めています。しかしながら、既存のBGMベクターシステムは、内在性RecAによる不必要な組換えが生じ、クローニングしたDNAを安定に保つことができない可能性が存在しました。そこでキシロースにより遺伝子発現を制御できるシステムを用いてrecAの発現を制御することで、遺伝子操作時のみrecAの発現を誘導できるBGMベクター(inducible recA expression BGM vector:iREX)を開発しました。


解説

 ゲノム解読の進展に伴い、非コードDNA領域を含むより長大なゲノムDNA領域の機能解析が重要性を増しており、そのための巨大DNA操作ツールの開発は必要不可欠な課題となっています。BGMベクターは枯草菌のゲノムそのものをベクターとして用いた、次世代巨大DNA操作ツールとして近年注目を集めており、最大クローニングサイズは3 Mb以上と非常に大きく、RecAによる相同組換えを用いた様々なDNA改変操作が可能です。これまでに廣田順二准教授らの研究グループは、252 kbの長大なマウスゲノムDNA断片をBGMベクター上にクローニングし、このDNA断片を用いたトランスジェニックマウスの作製に成功しています。従って、BGMベクターシステムはより長大なゲノムDNA領域を研究する上で非常に有望なツールとして注目を集めています。
 しかしながら、既存のBGMベクターではクローニングしたDNAの安定性に問題がありました。BGMベクターでは枯草菌の内在性RecAによる相同組換えを用いたDNA改変操作を行うことから、内在性RecAによる不必要な組換えが生じる可能性があります。そこでキシロースにより遺伝子発現を制御できるシステムを用いてrecAの発現を制御することで、遺伝子操作時のみrecAの発現を誘導できるBGMベクター(inducible recA expression BGM vector:iREX)の開発を試みました。これにより、遺伝子操作終了後はrecAの発現を抑えることで、クローニングしたDNAを安定に保持することができると考えられます。

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今後の展望

 トランスジェネシスの分野では、インサート内に複数のレポーター遺伝子を有するMultiple-reporter transgeneを用いて、複数の遺伝子の発現を同時に観察することがしばしば行われます。この時、ウイルス由来のIRES配列(用語3)を用いることで、レポーター遺伝子のバイシストロニック発現を可能にします。従って、インサート内に複数のIRES配列が存在する場合には、IRES配列を相同領域とした相同組換えにより、インサートが欠失してしまう可能性があります。iREXではキシロース非存在下において、相同組換えを防ぐことができることから、このような欠失を防ぐことができ、Multiple-reporter transgeneの構築が容易になると考えられます。また、哺乳動物のゲノムには多数の繰り返し配列が存在するため、このようなゲノムDNAを安定に取り扱う際にも、iREXは非常に優れたツールとなると考えられます。

用語

・BGMベクターシステム: 枯草菌のゲノムそのものをベクターとして用いた新たな遺伝子操作システムである。従来のベクターシステムに比べてより長大なDNAの操作が可能である。
・RecA: 枯草菌や大腸菌など、さまざまな微生物で保存されている相同組換えを担う酵素である。哺乳動物ではRad51という酵素がRecAに相当する。RecAをコードする遺伝子はrecAと表記している。
・IRES配列: Internal ribosome entry siteの略であり、リボソームが結合する配列である。目的遺伝子の下流にIRES配列を導入し、このIRES配列の下流にレポーター遺伝子を導入することで、目的遺伝子が発現と同時にレポーター遺伝子も発現させることができる。
・バイシストロニック発現: 哺乳動物では1種類のmRNAから1種類のタンパク質が発現し、この性質をモノシストロンという。IRES配列などのリボソームが結合する配列を目的遺伝子の下流に導入し、このIRES配列の下流にレポーター遺伝子などを導入すると、目的遺伝子とIRES配列、レポーター遺伝子が1つのmRNAとして転写され、この1つのmRNAから目的遺伝子に由来するタンパク質とレポータータンパク質が発現する。このように1つのmRNAから2種類のタンパク質が発現する様式をバイシストロニック発現という。